1998年、安田記念。
視界を遮るほどの、横殴りの大雨。
ターフビジョンに映し出されるレース映像は、白い靄で覆い尽くされている。
この日の府中は物凄い土砂降りで、ドロドロの不良馬場の中でのレースとなった。
そんな稀に見る悪条件の中。
史上最強マイラーの名に相応しい走りを見せた名馬をご存知だろうか。
その名は「タイキシャトル」。
タイキシャトルは、G1 5勝、重賞8連勝など数々の記録を残し、1998年には年度代表馬にも輝いた伝説的名馬である。
とりわけ1600mでは、ダート戦や海外G1含め7戦無敗の絶対的な強さを誇った。
尾花栗毛(栗毛の中でも、たてがみや尻尾が白っぽい毛色)の筋骨隆々の馬体は遠目に見ても目立っていたし、近くで見ると惚れ惚れするほど美しかった。
まさに天から二物授かった、といった印象の馬だった。
そんなシャトルの忘れられない大雨のレースが、1998年の安田記念だ。
その時のシャトルは、前年のマイルCS、スプリンターズS含めグレードレース5連勝中で、既にスプリント・マイル路線で圧倒的強さを示していた。
安田記念後の海外遠征プランも決まり、壮行ムードも漂い、まさに無敵。
そんな矢先に、荒れるG1レースとして有名な安田記念で、シャトル自身初の「不良馬場」でのレース経験が訪れたのだ。
レース当日。
シャトルは未経験ながらも1.3倍の圧倒的1番人気に推され、2番人気は10倍以上。
余程シャトルの勝ちを疑わない人が多かったのだろう。
レースが始まるといつものようにスタートダッシュを決め、好位からレースを進める。
この辺りはいつものシャトルらしいレース運びで安心して見ていられる。
3コーナーを回り加速していくと、馬場の内が余程悪かったのだろうか、4コーナーでかなり外に出したため、直線を向いた時には先頭を走る馬からだいぶ置かれたように見えた。
一瞬、シャトルの負けが頭をよぎる。
しかし、エンジンがかかってからは、やはりモノが違った。
ドロドロの馬場をものともせず、一直線に突き抜け、気が付けば2馬身半差の楽勝だった。
「さあ、夢は世界へ飛び出すか!タイキシャトル先頭、そのままゴールイン!!」
解説委員の言葉の通り、
「ああ、マイルでこの馬に勝てる馬はいないな」
と思ったのを今でも忘れない。
この後、シャトルは予定通りフランスに遠征し、直線G1 ジャック・ル・マロワ賞に勝利する。帰国後、ぶっつけで臨んだマイルCSでは5馬身差の圧勝。
安田記念からの3戦は、シャトルが、マイル戦では敵がいないことを証明しているかのようで思い出深い。
雨降る不良馬場を見るたび、人々は絶対王者タイキシャトルの走りを思い出すだろう。
20世紀最強と名高いシャトルは、次の「マイルの怪物」を待っている。
Writer 川崎ジャッキー