目を覚ますと、⾬音が聞こえる。昨夜泥酔でベッドに入りそのまま眠ってしまったらしい。幸い今日は仕事も予定もない。一⽇横たわったまま、映画を3本観ようと決めた。雨の⽇だからこそ観るべき映画がある。
たくさん思い浮かぶが、今日は中でも雨と<相性抜群>なものを選ぼう。なぜなら昨日の⼣⽅、ある女から<価値観の違い>を告げられたばかりだから。
⼀本⽬はいきなり『台風クラブ』、これなら二日酔いも吹き飛ぶはずだ。1985年に公開された相⽶慎二監督の代表作。巨大な台風が迫る直前の地方都市を舞台に、中学生たちの制御不能な⾃我、暴⼒、性がイノセントに描かれていく青春群像。
⼤雨が降りしきる校庭で少年少⼥が半裸になって踊るクライマックスの名⾼い⼟砂降りは、「このまま世界が終わってもいいじゃん!」と笑い飛ばす美しさに満ちている。
そうだった、思春期とは世界の終わりを見つめる時間だったのだなあ…そんな考えに浸っていると、あの女の声がリフレイン。
<わたしたちは終わった>…外の雨は勢いを増している。
午前中から嵐を浴びてスッキリした。レトルトカレーを⾷べ終えベッドに戻る。
すると、なぜか勝手に『Hole』が始まった。98年製作の台湾映画、ツァイミンリャン監督による奇妙な⼩劇場ミュージカル。
世紀末の⾬が降り続く日々、うらぶれたアパートの部屋の天井に穴が空いてしまったのを機に、下の階の女と上の階の男のメロドラマが始まる。雨による湿度が独特のムードをさらに濃密にしており、そのうち脳まで濡れて柔らかくなってくる。
この感覚はなかなか味わえない。ぼんやり画面を眺めていたら、突然この部屋の天井にも穴が空き、そこからあの女がひょっこり顔を覗かせていた。
そんな⽩昼の短い夢、寝落ちしてしまったようだ。画面は真っ暗。というか『Hole』は持っていなかったはずだけど…まあいいか、⾬降る午後は妙なことが起きやすい。
⾬はまだ止む気配がない。
買ったままにしていたカップヌードルの限定味を食べてから、『ミッドナイト・イン・パリ』を⾒返すことにした。ウディ・アレン2011年の作品で、パリを訪れた映画脚本家がある夜を境に1920年代のパリ芸術時代をさまようおとぎ話だ。ここでも⾬は必要とされる。ロマンチストな脚本家は「⾬のパリ」を最も美しいと信じているのだが、対して婚約者は⾬がうっとうしくて嫌。
こんなところにこそ、2⼈の違和感がくっきり浮かんでしまう。それにやっぱり、雨は恋に似ている。誰かを好きであれば悲しむこともあるだろう。
傘で⾝身を守ることが当たり前になっているが、濡れてしまったっていいじゃないか。そして永遠に乾かなければいい。
ラスト、脚本家が美しい⾬のパリに出会えたのを見届けると、自分も外へ出ることにした。
すでに夜、街灯に照らされる路上の雨が綺麗で、気付いたらあの人に電話をかけてしまっていた。
「もう一度会って話がしたい」
「いや。⾬だから」
「雨だからこそ」
「なに?」
違うものが見えるかもしれない……彼⼥は一度も電話に出なかったが、おかげで深夜の⾬音がいっそう優しく聞こえる。
ああ、この⾬みたいな⼈が今からこの部屋に来てくれたらなあ。
そうだ、次はなんかエロい映画をみよう。
Writer 松井 ⼀生
映像を作ったり、ライターをしたり、企画を考える⼈。
⽂中の人物ではありません。