日本舞踊の「雨」に見る、人の心の儚さと恋心

2017/06/09

日本舞踊とはなにか?と聞かれた時に、みなさまの中にパッと思い浮かぶものは、着物を着て扇子を持って何やら粛々と動いている…といったイメージではないでしょうか。歌舞伎や能の方がイメージしやすいですよね。

日本舞踊は、昔々、天照大神(あまてらすおおみかみ)が天岩戸に隠れて世界が暗闇になった時、岩戸の前で天宇受売命(あめのうずめのみこと)が踊って見せたものがはじまりと言われています。

その踊りに外に居た神々が大笑いし、天照大神が岩戸を開けたことにより世界に光が戻ったと言われています。

これが日本の芸能の原点ですから、芸能は本来、神様を喜ばせるためにあったと言えますね。

その流れをうけて、能や狂言、民族芸能などが生まれましたが、そのあとに庶民のための芸能、すなわち人間讃歌の歌舞伎などが誕生し、そこから日本舞踊も独立しました。 現代では、歌舞伎も能も狂言も、全てが含まれている一番新しい日本芸能が日本舞踊です。

今回のテーマは『雨』とのことですが、日本舞踊では「雨」を色事を表す手法として用います。"色"と言いましても、絵具などの色ではなく、"色気"、"恋"などの色事のことです。

例えば、日本舞踊の中でもポピュラーな演目に、長唄「雨の五郎」があります。この踊りは、曽我の五郎時致が愛人化粧坂(けはいざか)の少将(しょうしょう)の居る廓へ通う五郎の姿を舞踊化したものです。雨にしっとり濡れることが「恋愛の比喩」になるんですね。

また、長唄「五月雨」では、雨の中でかきつばたを見ながら、恋を思い出します。梅雨の季節の物憂い気分が恋のやるせなさに通じますね。

大和楽「あやめ」も、あやめやかきつばたの紫色を見て、色移りするような危うい恋の情緒を楽しむ踊りです。

日本舞踊では、演目の中に「雨」が降っている設定を取り入れることで、観客の無意識下に恋の切なさやときめき、危うさ、また時に妖艶な雰囲気を感じさせる趣向を凝らしているのです。

このように、今回は日本舞踊における「雨」の捉え方をお伝えしました。

しかし日本舞踊に限らず、"水も滴るいい女"なんて言葉の通り、雨が降っている時は「色」が強く現れるのかもしれません。

雨の日こそ、いつもより自分が綺麗にハツラツと輝いて見られるチャンスと思い、「雨」を楽しんで頂ければと思います。

 

Writer  日本舞踊家/西崎 櫻鼓

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